引きこもりになるまで

ひきこもる人の裏には
強い「怒り」が隠されているんじゃないかと
ふと思った


ひきこもりの原因は人それぞれで
1つきりではないのだと思うのだが


「怒り」
親に対して、世間に対して

これを上手く表現出来ずに、
マグマの噴火を抑えるようにして
自分自身の感情を、
閉じ込めてしまっているんじゃないかと思う



.*・゚ .゚・*.


私は転職活動をした末に
全くの未経験で介護業界に飛び込んだ



知識も経験も何もないまま、
お年寄りの身体介助を身振り手振りで、
現場で教わる


私が入ったのは
スタッフが少人数のグループホームだった為


まだ何も分かず、全く不慣れな状態だが
即戦力になるようにシフトを組み込まれた



これはどこの施設でも起こりうる事らしい。
介護業界は、慢性的な人手不足に悩まされている



他人の入れ歯を触って洗う事、
オムツ替えをする事


介護の仕事自体が、はじめてだったので
多少の抵抗もあり、この仕事を出来るのか
不安だったが


何よりも一番苦痛だったのは
利用者さんへ向かって、
怒鳴りながら指示をするような社員


その社員がいると現場はピリピリとして、
冷たい空気だ
スタッフの顔が、疲弊している


そこに入居している利用者さんは、
とても良くしてくれたし
楽しいと感じる瞬間もあったが


「この職場で、介護の仕事が楽しくなくなったの。もう辞めたい」
良くして下さったパートさんの
ボヤきを聞くと


私は他の施設は知らないが
この場所にいても、得られるものや
明るく働ける未来は無いんじゃないか…と
感じて


私は早々に、
その職場を辞退した



その後、改めて
未経験での介護の仕事は難しいと感じて


「初任者研修」の資格を取得する為に
民間のスクールに通う事になる


僅かだが、現場をかじった身としては
授業は楽しいし
(そうだったのか)と新しい発見もある



ただ、
クラスのメンバーは主に40代くらいの主婦さんや
もしくは50代、60代。
親の介護の為に勉強しにきました、という方々で
なんとなく
20代の私では、教室に馴染み辛い感じがした



私は朝起きるのが苦手なので
なんとか体を叩き起して、
嫌々とスクールに通う


でもまぁ、資格さえ取っておけば
後からでもいくらでも働けるだろうと思い


介護の仕事をするかは、まだ分からないが
ひとまず、スクールに通う事にしていた



ここまでは、一応
ストーリーは順調に進んでいたのだが




ある日、こんな私の様子を見て
父が機嫌を悪くした


「アイツは携帯代も払わないで
いつもフラフラしやがって」
と文句をボヤキはじめた


その前日、
私が遊びに行っていたのが
気に食わなかったらしい


働いてもいない身分で
よく呑気に遊んでるな、というクレームだ



いい歳をした娘が転職活動に失敗して
ふらふらしてるように見えたのだろう


私もなかなか、動きがスローペースで
お尻に火がつかないと、
本格的に動き出せる性格じゃない為


まったりと
転職活動をしていた



その様子への鬱憤と、
父自身の、仕事への不満。

それから、娘を早く働かせて
一刻も早く家計に金を入れてくれ
というくらい、厳しい我が家の経済状況に

父親は苛立ちを顕にすると


「お前の育て方が甘いからじゃないか」と
何度も、母へ怒鳴り付けている


尋常ではない怒り方で
私への文句を垂れ流す父


家の中の物を投げる、
乱雑に扱う


とにかく、
怒鳴り声がリビングでずっと響いた


父は、こうして
ちょっとでも気に食わない事があると
すぐに大声を上げる


幼少期、
転んで怪我をして「痛い」と泣くと


「そのくらいで泣くな、
オレはもっと痛い怪我してる」と
自分の怪我自慢をするような人だった


「辛い」や「痛い」を
全然、分かってくれない


歯を食いしばって努力する事を、
他人にも強要する人だ




転職活動の失敗。
スクールで馴染めない違和感を感じながら


(ちょっと生きづらい。社会に出るのが辛いな。)
と感じていたので


更に、
「あいつはいつまでもふらふらしやがって」
の言葉に、自尊心は崩れ落ちた


これから社会に出て働く事、
仕事をする事を


絶対に働かないと、生きていけない


そう考えた時
徹底的に自信を無くしてしまったのだ



「生きていけないかもしれない」

この日、
「死にたい」というより
「生きていけない」という風に感じた



この先の長い人生
働いて生きていく事に、
漠然とした不安を感じたのだ…





以前は、在宅で
自分の才能を活かした仕事をしたいと思い


ハンドメイド作家や
フリーライターを目指したり、
Webデザイナーを夢みた時期があった


しかし、気付いてしまったのだ
自分で思う程、
私にはなんの才能もないことに。


ポンコツ」だった。



社会に出て働いても、
何年もいる職場でミスが絶えなかったり
「使えないな…」と感じる機会はたくさんあったが



だからと言って、
自分の才能で生活費を稼げる能力も
今の私には、無いんだと痛感した



「生き方が分からない」
「社会に出て、
またポンコツのまま働かないといけないのか…」




父の怒鳴り声を聞くうちに、
なんとなく、全ての気力を失った






.*・゚ .゚・*.





父が吠えた、翌朝


私は鬱陶しい身体を叩き起して
嫌々ながらも、スクールへ足を向けた



満員電車にギュウギュウ詰めにされている途中
なんとなく、
腹の底から「殺意」が沸いてきた



(なんであんな怒り方したの)
(なんで、私も頑張ってる事を分かってくれないの)


父親へ対する怒りを
本人にはぶつける事が出来なかったので



代わりに満員電車でイライラして
全くの関係ない、乗客のサラリーマンに
怒りをぶつけそうになったのだ



ヒステリックになって
電車の中で喚き散らすのを
精一杯、自分を抑えながら無表情で黙り込む



その日1日の授業は
全く、頭に入ってこなかった



父親への「怒り」と
将来への「不安」



授業、ノートにびっしり
「死にたい」という文字を書き出した



休憩時間も、
「死にたい」「働きたくない」と
Google検索をしていた




帰り道はその日
土砂降りの雨で


私は頭痛を感じて
電車の優先座席に腰掛けたのだが


近くにいたオバサンから
「信じられない…」「まだ若いのに」
「この席、なんの席か分かってんの」


後ろでブツブツ呟かれたが


例え私が席を立っても、
どうせまた別の若者が座るだけになる


知らないふりをして、
眠りについた



滝のように打ち付ける雨を
窓の外にみながら


(もう、辛いなぁ)と
本日、何度目かの「死にたい」
気持ちを痛感した






.*・゚ .゚・*.




翌朝。
外に出るのが怖くなった



「休みます」の
電話一本出来ずに、スクールの無断欠席


(よくないな)
と思いながらも
電話するのが怖い


この日を境に私は
布団に引きこもるようになる


外に出るのが怖い。



満員電車の中で、
次こそ暴れてヒステリック起こしたらどうしようとか


人のいる場所に行くのが
なんとなく怖くなったのだ



ご飯を食べる気持ちまで
すっかり失せた



やらなければいけないことを放棄して
それでも、自分は美味しくご飯を食べるだなんて
そんな事してはいけないと思い


セルフネグレクト状態だ



しかし腹は減るので、
とりあえず食べる


いつもの半分の量で
お腹は苦しい



なぜ私はこうなったんだろう?
無気力の中、考える。



そもそも
引き篭り」といえば



「無気力」「外への恐怖心」
「怯えているような気持ち」
なのだと私は思っていたが


よくよく考えてみると


私の胸の奥には
強い「怒り」があった


(あれ?私、怒っているの?)
少し、びっくりした



引きこもりになる原因は
もっと臆病な気持ちのイメージだったが


私はめちゃくちゃ「怒っていた」



父親に対して、
「怒っている」のだ


「反抗的」になっているのだと
やっと気付いた



(私がこんなに、
外に出れなくなるくらい
ダメージ受けてるのお前のせいだからな!)
みたいな気持ちだと思う



静かな「抵抗」であり「逆襲」なのだ




この怒りを、本人にはぶつけられずに
満員電車の中でヒステリック起こしそうになった時、それを堪えて



自分の中の「怒り」が爆発しないように
内側に、内側に秘めているような感じがした



「引きこもり」と「怒り」には
密接な関係があるんじゃないかと感じた私は



早速インターネットで
「引きこもり」「怒り」と検索をすると



引きこもり家庭の子供は
親への怒りを感じているパターンが多いらしい



そういえば、聞いた話だが
もう10年も引き篭っているという男性



引き篭るようになったきっかけは
親が部落の女性との結婚の反対をして、
好きな人と結婚させて貰えなかった
という事がきっかけだったそうだ




いま引きこもりの状態にある人は



胸の内に
どうしようもない「怒り」を秘めているんじゃないかと私は感じている




自分ではいつか暴れ出しそうな怒りの感情を
必死に自分の中に押し込めて


何もしないよう、何も起こさないように
意識を逸らして、爆発しないように
堪えているんじゃないだろうか?




そもそも「優しい人」が
そうなるんだと思う



外や他人に、
思いっきり怒りをぶつけられずに
自分の中に、抑え込んでしまう




では、引きこもりの改善策として




この「怒り」を発散させる事で
せめて、胸の奥の「怒り」を自覚する事で



ちょっとでも、なにか
前向きになれるんじゃないか?と私は考えた




長年引きこもっていた人間が
突然、残虐な殺人を起こしてしまった
という事件も過去にはあるが



あれは


ぶつけようのない怒りが
何かのきっかけで世間に向いて
爆発してしまった
最悪のパターンに思う




そんな事件が起きる前に


この「怒り」を
何処かへぶつけて、発散出来たら
悲しい事件も少しは減らせるんじゃないかな…と





自分が引きこもりを体験してみて、やっと
「人はなぜ引きこもりになるのか」
について、共感出来たような気がする